ブリジストン美術館と小諸蕎麦

1.入館切符を求めて並んだり、むせかえる雑踏の中で絵を鑑賞するのは誰でもイヤである。
お盆は人の出も少なく、この意味で、絵画の鑑賞としては良い時期である。

外気の気温が35度近くになった8月15日午後0時に中央区京橋1丁目にある「ブリジストン美術館」を訪れた。

8月2日から9月23日まで、「絵画の時間」と題して、彫刻、絵画167点が展示されている。案の定、来場者はそれ程多くなく、1階の受付をすませ、エレベーターで2階の展示室に降り立った。

2.展示室は西洋関係の彫刻・絵画で10室、日本の洋画、1室で構成されている。エジプト、ギリシア、ローマの彫刻や文物もさることながら、やはり、近代絵画の展示がメインである。

最初にレンブラントの3作品がある。レンブラント自身の肖像絵とキリストにまつわる2作品があるが、F3よりも小さいサイズに暗い色調で描かれた人物に前近代的な雰囲気が漂う。アングルやクールベの作品は、写実を基本とした古典的な様式の作品である。

前印象派の中でも、カミーユ・コローの作品は森の小道と農家を描いたものであるが、木々の描写が写実的であると同時に色彩が極めて巧みであった。カミーユ・ピサロになると木々はやや多色的になり、印象派の到来を予感させる。マネの2作品をみたが、筆裁きにエッジをきかせている感じを抱いた。

アルフレッド・シスレーは3作品がある。アルべール・マルケと並んで私の好きな風景画家である。

ルノアールは5作品があり、少女を描いた大作の「座るジョルジェット・シャルパンティエ嬢」が秀逸である。ルノアールの描く人物の顔の輪郭がいつも曖昧なのはこの作品に限らない。女性の柔らかいタッチを重視してのことと思われ、この絵も鑑賞する距離をかなり離してみると生き生きとした全体の表情が浮かび上がる。

3. 次は、同じ巨匠のポール・セザンヌの3作品がある。中でも「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」は迫力がある。前景にぼかした赤松と斜めに取った構図の中央に、中景としてサント=ヴィクトワール山がどんと控えている。この絵も距離を置いて眺めることが必要である。

クロード・モネは5作品が展示されている。やはりこの人の作品は「睡蓮」である。療養のため妻と滞在したヴェネツィアを描いた「黄昏・ヴェネツィア」は、寒色系から暖色系までのすべての色が階調をもって現されていることに驚く。

ゴーガンは2作品、ゴッホは1作品「モンマモトルの風車」が展示されている。ゴッホが描いたように、モンマルトルは都市郊外の田舎で描かれたような風車があり、のどかな雰囲気があったが、パリの都市化が進むにつれ、キャバレーや酒場などが相次いで作られた。

アンリ・マティスも6作品がある。

アルベール・マルケは2作品があり、そのうち「道行く人・ラ・フレット」は私が好きな作品である。本物を直に鑑賞することが出来て大変に嬉しい。モーリス・ブラマンク「運河船」は赤、白、青の原色をそのままにブラマンクらしい絵である。エドヴァルト・ムンクの「病める少女」も病める少女の左傍らに顔を手で覆った女性は母親であろうか?

フェリックス・ヴァロットンも2作品がある。ジョルジュ・ルオーの「郊外のキリスト」「ピエロ」も強烈な印象を与える。あの黒色系は、何を現すものなのか、不安というより静かな祈りに近く、絵を通して祈っていると思える。アンリ・ルソーは2作品がある。ルソーは遠景も近景も細密画のように描く。配置も形も独特でありながら、奇妙なファンタジーを感じさせてくれる数少ない画家である。

ラウル・デュフィは2作品があるがやはり音楽的で色遣いも軽快である。「オーケストラ」は秀逸である。

パプロ・ピカソは7点ある。やはりこの画家はゴッホと同じく尋常ではない画家である。人物画もよかったが、「画家とモデル」と「ブルゴーニュのマール瓶、グラス、新聞紙」が断トツの出来と思える。ジョルジョ・デ・キリコは1作品しかなく寂しい感じがした。モーリス・ユトリロは2作品。彼らしいパリの町並みや川岸の風景絵である。

藤田嗣治は3作品がある。「猫のいる静物」をみるとこの人の線の弾き方に驚嘆する。猫、燕、静物として並べられた魚、蟹、人参、玉葱だけではなく、テーブル廻りの木材、これは木目が美しく、まるで本物の木目のように描かれているのである。このような線の弾き方は藤田の十八番であったものであるが、どのようにして体得したのであろうか。

続いて、佐伯祐三の「ガラージュ」という作品がある。佐伯の作品も私の好みである。ブラマンクではなく、ポール・セザンヌに師事していれば夭折せずに、後日、藤田と並ぶ大家となったと思うと残念である。抽象画のワシリー・カナディンスキーやパウル・クレーの作品も1作品ずつ展示されている。

4.日本画家の展示室には、浅井忠の2作品、藤島武二の2作品(「黒扇」が良い)、小出樽重が2作品、安井會太郎が3作品、岸田劉生は3作品があり、「麗子座像」は強い印象を与える。古賀春江の3作品(初期の「遊園地」が良い)、梅原龍三郎の1作品、岡鹿之助、関根正二はそれぞれ1作品がある。

5.ブリジストン美術館の帰りに京橋3丁目の立ち食い蕎麦「小諸蕎麦」に立ち寄った。私が弁護士1年目で京橋に通い始めたときに出来た「小諸蕎麦」の1号店である。まだ、健在で味も昔と変わらずに値段も安いことに驚いた。良いものは長く残って欲しいと思いながら、銀座1丁目の駅に向かった。