「著作権法」入門【第4回】

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第2 著作権の基礎知識

1「アイデア」と「表現」

(1) 著作権法の入門にあたって、まず、知っておくべき基礎知識が三つあります。

第1は、「アイデア」と「表現」の区別です。 著作権法は、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(2条1項1号)と定義付けています。つまり、著作権法は、思想・感情の「創作的表現」を保護するもので、ある作品が「創作的表現」の成果か否かを識別するためには、「表現」と、その背後の「アイデア」とを区別して考察することが必要です。

日本法には、この区別に関する条項はありませんが、アメリカ連邦著作権法では、102条bで次のとおり明示されています。

In no case does copyright protection for an original work of authorship extend to any idea, procedure, process, system, method of operation, concept, principle, or discovery, regardless of the form in which it is described, explained, illustrated, or embodied in such work. (著作者による創作的作品の著作権の保護は、著作権のある原著作物に対する著作権の保護は、その作品における記述、説明、図示、具現の形式の如何を問わず、アイデア、手順、工程、方式、操作方法、概念、原理または発見には及ばない。)

(2) 著作権訴訟では、ある作品について原告が求める保護の範囲が「表現」か「アイデア」かが争われることが少なくありません。

例えば、薬剤を分類して薬剤情報を付した便覧の編集著作物性争われた「治療薬ハンドブック」事件判決(東京地裁平成24年8月31日判決―最高裁HP知的財産権判例集)では、 「原告の主張は、結局のところ、著作権法上保護の対象となる表現それ自体ではない、本件分類体系に従って薬剤を分類するという原告書籍の編集方針、すなわちアイデアの保護を求めるものというほかなく、失当である。」 として、原告の請求が棄却されています(控訴審で一部変更)。

(3) 例えば、平山郁夫画伯の、シルクロードの月の砂漠を行くラクダの隊商のリトグラフ画を思い浮かべて下さい。この絵の夜の砂漠の光景やラクダの姿や商人たちの表情などの具体的表現が保護されるのは当然として、シルクロードの月の砂漠を行くラクダの隊商を美術的表現の対象とすること自体は、アイデアに他なりません。もし、平山作品の保護範囲をアイデアにまで広げると、後発の画家は、そのような図柄で絵を制作しようとするたびに平山画伯(相続人)の許可を得なければならない。これでは絵画的表現の自由が大きく制約され、文化の発展に寄与するという著作権法の目的にも反することになりかねない。

このため、著作権の保護はアイデアなどに及ばないというのが、著作権法の基礎知識の一つなのです。