4月の花(桜)を思う

1. 東京の桜も散る時季を間近に、今は盛りと咲いている。今日は、お釈迦様の誕生の日であり、「花祭り」の行事が催される地方も多い。釈迦の誕生日であるが、丁度桜の散るこの時期に思い起こされるのは、平安末期から鎌倉初期にかけて活躍した西行法師の桜の歌である。
  願わくは
   花のしたにて
     春死なん
   そのきさらぎの
     望月のころ
 桜をこよなく愛した西行のこの歌は、桜を詠んだ数多くの歌の中でもつとに有名である。
 この歌は、西行が亡くなる7年前に歌集選定の勅命により作られた「千載和歌集」に載せられ、西行は、1190年3月31日午後2時ころ、河内の弘川寺で入滅したが、その知らせを聞いた京の都の人々は即座にこの歌を思い浮かべたという逸話が残っている。
 「西行の風景」(NHKブックス)を著した桑子敏雄氏の解説によれば、西行と親交が深かった藤原俊成は、西行の歌を「詞あさきに似て心ことにふかし」と述べ、後鳥羽院は「心がことに深い」と評価したという。

2. 西行の風景を詠う和歌には、表象的な風景の背後に隠された「空間意識」のようなものが控えており、それは弘法大師が伝達した密教の「空間意識」(厳密には虚空)と同根で、その「空間」に日本の文化(和歌)を映し出したというのが桑子氏の分析である。西行が50歳の時に、崇徳院の霊を慰めるため讃岐国を訪ね、善通寺にて暫く庵を結んだという来歴からみて、誠にスリリングな解釈である。

3. 日本人の持つ「空間意識」というのはどのようなものであろうか。東京では高層タワーが乱立し、「空間」は単なる物理的な要素に貶められている。これに対して京都は、平成16年に「景観法」を策定し、建物の高さを制限するばかりでなく、建物の形態、色彩、意匠等に制限を加えて、1200年を超える古都の景観を守ろうとしている。政治経済中心の東京都と文化を伝承する京都市の「空間意識」のあり方を思うとき、4月の花はどちらの町が似合うのか論ずるのも一興と思える今日この頃である。

4. 4月8日を祝して、「千載和歌集」からもう1句、西行の桜の歌をここに現したいと思う。

 仏には
  さくらの花を
   たてまつれ
  わがのちの世を
   人とぶらはば