互いに名前も知らない陪審員たち-「12人の怒れる男」(シドニー・ルメット監督 1957年)(1)

「12人の怒れる男」を初めて観たのは、教養課程の学生だった頃です。それから半世紀以上が過ぎて、数日前、「つたや」で借りたDVDで、古典となったこの白黒作品を再び鑑賞。12人の男たちが、裁判所の階段を下り、巨大な神殿のような玄関の柱を抜けて四方に急ぎ足で散っていく、印象的なラストシーンが甦りました。

記憶のうすれで、「怒れる男」という表題は、検察の不正に怒りをもって立ち向かった12人の陪審員を示すものと思い込んでいました。しかし、DVD鑑賞の後でPenguin Classicsの演劇脚本をよく読んでみると、至るところに、angrily, his anger rising, shouting, yelling, shut up, his face dark with rage, stare at each other…などの「と書き」が使われ、I’ll kill him(論争相手の陪審員を)という恐ろしいセリフも登場します。つまり、「12人の怒れる男」は、陪審員たちが全員一致の評決に至るまでの、「怒り」に満ちた言語的格闘(乱闘寸前で警備員が駆けつけたほど)を内容とするものだったのです。

この映画では、見ず知らずの12人の男たちが、法廷で裁判官から「死刑の余地のある第1級殺人事件」であることの注意を受けるシーンから前述のラストシーンの直前に至るまで、すべて密室内での男たちの半日にわたる激論の描写に徹しています。男たちは、お互いに名前すら知らされず、陪審員番号で呼び合う。しかし、職業だけは、経験や体験についての発言の中で、建築士(ヘンリー・フォンダの演じる8番の陪審員)の他、銀行員、時計職人、体育コーチ、株ディーラー、労働者…と、さまざまであることが分かります。

「12人の怒れる男」(シドニー・ルメット監督 1957年)(2)